7.evergreen【R-18】

 裸のアスランと向かい合うと、カガリはいつも騙されたような気分になる。
 中性的で端正な顔立ち。肩にかかるさらさらの髪、引き締まっている割りには細い手足。
 穏やかで優しい容貌に対して、血管が浮き出るほど赤黒く腫れ上がったペニスが、まったく浮いてみえるからだ。
その上にある腹もその下にある太腿も、しみひとつない白さを保っているというのに、そこだけが不思議なほどグロテスクだ。
 もちろん、そうあるべきものなのだということは知っていたし、醜いと思ったことはなかったけれど、やはりちぐはぐな気がしてならなかった。
 そしてそんなものに欲情する自分が、やはり同じように不思議だった。
 アスランの肌を見るたびに浮かんでいた疑問を、久しぶりに思い出す。
そしてそれが、抱かれていた頃の手ざわりを呼び起こす。
(ああそうだ、これが私たちの空気だった)
 抱かれる前の独特の緊張感がよみがえる。それは、カガリの中の女をざわりと煽り立てる。
 行為に入る合図のように、長いキスを交わす。
 思い出す。
口下手なアスランは、直接言葉でセックスを誘うことはほとんどなかった。
不意に長いキスをすることでいつも行為を催促してきた。
 手を伸ばせばそこに居ることが、明日も一緒に居ることが、当然だと思っていた頃の話。

 貪るようなキスに応えながら、カガリはアスランの下半身に手を伸ばす。
身体を重ねる時は、恥ずかしくてほとんど受身だったが、今日ばかりは自らの意思で抱かれることを示したかった。
 弾けそうなくらいにぴんと肌が張っているそれを、親指と人差し指にだけ力を入れて包み込む。
二本の指で作った輪をきゅうっと締めると、小動物のようにびくんと震えた。
「どうやら、大人しく犯されてくれる気はないみたいだな」
「少しは抵抗しないと、お父さまに申し訳がたたないだろう?」
 憮然としたふりをして、するりとベッドから降りると、カガリはアスランの膝の間に収まった。
 少し驚いたものの、アスランはおとなしく身を任せる。
 鼻先にあったペニスに頬を擦り付けて、カガリはアスランを見上げる。
羞恥心と、うれしさと、緊張と、いろんな感情がぐちゃまぜになる。
強い言葉とは裏腹に、頬は染まり、目は潤んでいた。
それはアスランにとって、眩暈がするほどの福音になる。
 アスランが何か言いかける前に、カガリは一瞬の決意の後、小さな舌をちろちろと這わせ出した。
 触れるか触れないかの、湿った刺激。腰の内側から、ぞわぞわとうねるような波が生まれる。
「……ふ……ぅ……」
 潤んだため息が鼻を抜けた。
 アスランは急激な刺激に飲み込まれそうになるのを必死に耐える。
にわかに硬さが増すのを舌で感じると、カガリはさらに下から上へと舐め上げる。
「……っは……ぁ……あ……」
 ちろりちろりと這い上がった舌が先端に届くたびに、アスランから苦しげな吐息が漏れる。
全体をくまなく湿らせると、今度は先端との間の段差を丁寧に舐めまわす。
すでに甘苦く潤んでいる鈴口に舌を割り込ませ、ちゅるりと先走りを吸い上げた。
「ぅあっ…………!!」
 あまりの刺激に、吐息が声に変わる。
 確かな手ごたえを感じたカガリは、いったん舌を離すと一気に根元まで口の中に収めた。
「くあぁ!!……ふう……っ……」
 やわやわと上下したかと思えば、思い出したようにきつく吸い上げる。
鬱血するほど吸われたと思ったら、今度は撫でるように舌が踊る。
「……ぐ……っ……っつ……」
 普段はあまり感情を見せないアスランが、声を殺しながら滑稽なくらいに翻弄される。
髪を揺らし、肩を震わせて快感に耐えるアスランを見上げながら、カガリは欲望の正体をおぼろげに掴んだ。
 この醜くも美しいものの愛しい理由を。
(ああそうか。一番弱い部分だから、こんなにもいとおしいんだ)
 愛しさは慈しみに変わり、慈しみがさらなる快感をアスランにもたらす。
激し過ぎる緩急が、アスランを確実に追い詰めていく。
 短くなっていくアスランの呼吸から昂りを感じ取ると、カガリはアスランの呼吸に合わせて頭を上下させ始めた。
「…ぁはっ……は……っ……は……っ……」
 ちゅくちゅくと部屋に響く唾液の音と共に、一気に、確実に、快感が駆け上っていく。
そのまま身を任せたくなる誘惑を必死に振り切って、アスランは引き抜くようにカガリをベッドへ引きずり上げた。
「……そのまま出しても……よかったのに」
「……ぅ……はぁ……。……そんなわけに……いくか……っ……」
 かろうじて踏みとどまったものの、今だ茫洋とするアスランに、カガリはさらなる刺激を与えようと手を伸ばす。
が、その手はアスランによって捕らえられ、シーツに縫い付けられた。
「……ごめん……余裕なさすぎだな……俺……」
 十分にカガリをいとおしむ余裕もなく、早急に進入を望むことを詫びる。
 返事の変わりに、カガリは恥ずかしそうにはにかんだ。
『気にするな』
そう言うように。
 すでにはち切れそうになっているペニスで、コツコツとカガリの入り口を叩く。
『ここに入りたい』と乞うように。
さしたる愛撫もしていないというのに、意外にもそこはやすやすと進入できるほどに潤っていた。
「カガリ……これ……」
「う、うるさい! ……お前が気持ちよさそうなの見てたら……なんか……」
 真っ赤になってもごもごと言い訳するカガリが愛しくてたまらない。
頭よりも身体が先にカガリを求めた。
「……きぁ……んっ……!!」
「……く……」
 久しぶりに男を受け入れたのだろう。カガリの中は、以前よりずっと進入しづらくなっていた。
 濡れた綿同士が粘着するようにきつく閉じられている中を、かきわけながらじわじわと進んで自分の形に変形させる。
アスランの、アスランだけの形にカガリの内側が変わっていく。
身体の内側の熱と、ぬめぬめとした潤滑と、何より狂うほど焦がれていた場所を取り戻した達成感。
 渇いていた身体が、つながった部分から潤っていくのが分かる。じわじわと確実に心と身体を満たしていく。
すべてが支配されて、何も考えられなくなる。
 気づいたときには、必死にしがみつくカガリをがむしゃらに揺さぶっていた。
「……あっ……アッ…す……ら……んんん!!!」
「……かっ……ガリ……ぃっ……カガ……リ……」
 まるでそれ以外の言葉を忘れてしまったかのように名前を呼んで、一気に登りつめる。
すでに一度放出の機会に我慢を強いられていた欲望は、もう止まってはくれない。
「……カガっ……ぅ……ああああああ!!!」
「……んっ……ぅ……ぃ……!!!」
 かろうじて直前に腰を引く。間髪入れずに、アスランの白濁がカガリの腹と胸に撒き散らされる。
 ほんの数秒。数回に分けて放出されるそれを、カガリはうっとりと見つめていた。
体温よりもあたたかいその液体が、たった今アスランの身体の内側から吐き出されたのかと思うと、彼の体の内側の熱を直接感じられるような気がした。
 胸の谷間や臍に溜まったそれに、自ら手を当てる。
ねちゃりとした感覚と、甘く苦い雄の香り、そして熱がアスランを生々しく伝える。
「かっ……カガリッ……!!」
 射精の余韻でうっとりしていたアスランは、慌てて脱いだシャツを拾い上げ、カガリの上に吐き出した精液を丁寧にふき取った。
「ご……ごめん!! 汚い……。俺っ……」
 支離滅裂な言い訳を始めるアスランに見せ付けるようにして、じゅぶりと大仰な音を立てて精液にまみれた指をしゃぶってみせる。
「汚くなんてない。……でもなんだか、いつもより苦いな」
 怪訝そうな顔をするカガリに、真っ赤になったアスランはますます空転する。
「あ……いや……その……久しぶりだったから……あの………」
「へぇ。真面目に仕事してたんだな」
 ちゅぱっと音を立てて最後の一滴を飲み下すカガリに、アスランは先ほどまでとは別の熱が生まれたのを感じた。
 ぎしりと音を立てて、膝と膝の間に手を着く。
獲物を狙う獣のようにアスランが進み出る。
 事後の余韻に今だ夢心地だったカガリは、アスランの意図を察すると、挑発するように目を細めた。
 なるほど彼女は『獅子の娘』だ。
食われる側たる獲物には成り下がってくれないらしい。
 それでも、情事の始まりを告げる深い口づけに応えていくうちに、ただの少女に戻っていくのが分かる。
文字通り身も心もカガリを裸にしていく快感と征服欲が、堪らなく心地よい。
 前戯と呼べる前戯をしなかった一度目を挽回するべく、アスランは丁寧にカガリの身体に指を滑らせていく。
触れるか触れないかの刺激が、過敏になっているカガリの肌を粟立たせる。
微かな刺激は、大きな刺激を求める呼び水となってカガリの中心を流れていく。
「……アス……ラン……」
『もっとして欲しい』と目で訴えられる。
 言葉にできないのがいかにも彼女らしい。
 名前を呼んで求めるだけが精一杯。
そのくせ、アスランをねだるその姿は娼婦のような色気を纏うのだ。
 しばらく触れない間に大人びた容姿と、見知った少女の羞恥心が同居する。
愛しさ、庇護欲、支配欲、さまざまな感情がアスランをぐらぐらと揺さぶる。
 カガリの要望に応えたわけではなく、単に本能だったのかもしれない。
気が付けば、噛み付くように体中を吸い上げて、やさしくする気持ちなどどこ吹く風で体中を撫で回していた。
「……やっ……ぅんっぅん……」
「……ッガリ……はぁっ……カガリッ……」
 盛りのついた犬のように鼻息を荒くする自分が、アスランはひどく滑稽に思える。
 けれどそのみっともなさが、麻薬のような快感で。
体裁とか、立場とか、プライドとか。そんなものをどんどん脱ぎ捨てていく感覚が、たまらなく心地よかった。
 解放される。自分自身という、堅牢な檻から。
 のしかかられるようにして身体を貪られながら、カガリは無意識にアスランの髪を撫でる。
それすら気づかず、目の前しか見えないかのようにがむしゃらにカガリを求めるアスランが、無性に愛しかった。
 人一倍お人よしで、禁欲的なアスランだから。
二人きりの時にしか、わがままで等身大の少年に戻れないアスランを痛々しく思う。
けれど、普段の平静さをかなぐり捨て、みっとも無く乱れるアスランは、奇妙なほどリラックスして見えた。
 連絡をとることすらままならない環境で、それでも立っていようと虚勢を張っていたのは、自分だけではなかったのだと安心する。
文字通り裸に戻るという行為は、こういうことなのかも知れないな、と愛撫に浮かされてぼんやりした頭で思った。
 ぐちり、と音を立てて、入り口にアスラン自身が当てがわれる。
 愛撫の間は夢心地でいても、侵入されるこの瞬間だけは妙に冷静になってしまうのはどうしてだろう。
身体を進めていくアスランの恍惚を目の当たりにすると、その瞬間だけ冷める自分がなんだか薄情な人間にさえ思えてしまう。
 だからこそ。
襞が内側に巻き込まれるちょっとした痛みにも、もう少し濡れていないと痛いだろうな、という予感にも目をつぶって、アスランを受け入れる用意を整える。
表情には億尾にも出さないよう心がけながら。
「……んっ……んんん……」
「……カガリ……あの……」
「……なん……だ……?」
 閉じていた目を開けると、申し訳なさそうにするアスランの顔がそこにあった。
「……どうした?」
「……あの……まだ……あまり……濡れてない…から……」
 瞬間、カガリはぎくりとする。
 侵入の際の滑りの悪さで、さすがにアスランも気づいたのだろう。
決して気持ちよくないわけではないのだが、久しくセックスをしていなかった身体は、急激な変化に戸惑っているようだった。
 だが、カガリとは対照的に、アスランはすでにはち切れんばかりだ。
びくびくと脈打ち、いよいよ赤く染まるアスラン自身がそれを雄弁に物語っている。
「大丈夫だ。……一度入れば……奥……のが……かき出されて……ちゃんとできるように……なる……から……」
 しりすぼみ説明するカガリは、所在無くうつむいた。
直接的な言葉を使うことには、いまだに抵抗がある。
 カガリの痛みを想像しながら、それでも誘惑に負けてアスランはさらに奥深くに入っていく。
ぎゅうっと目をつぶるカガリの姿にその辛さを想像するが、一度身体を引いてみると、カガリの言う通り奥に燻ぶっていた粘液の潤いが動きを滑らかにしてくれた。
(奥でも、こんなに感じてたんだ――――)
 奇妙なほどの支配欲と征服感が、一度引いたアスランの射精感を一気に押し上げる。
先ほど熱を吐き出したばかりだというのに、性急に腰を打ち付ける。
「……うぁ……カガリっ……っガリ……あ……」
「ア、アスら……ちょっ……あぅっ……!!」
 動きがスムースになったことに安心したのも束の間、急に動き出すアスランにカガリは驚く。
 けれど、憑かれたようなアスランの表情と、何より中にいるアスランの様子で、彼が性急に射精したがっているのを理解した。
本音を言えば、もう少し時間をかけて欲しかったが、アスランの懸命な様子を見ると、調子を合わせることしかできなくなる。
「……カガリっ……カガリッ……っく……もう……!」
「……んっ……んっ……気持ちよく……なって……」
 かろうじて己の限界を伝えた直後、アスランは果てた。
 昇り詰めきっていないカガリには、アスランを観察する余裕が残っている。
だからこそ、夢中になって一人性急に果てたアスランの余裕のなさを余計に可愛く思う。
 満足そうにぐったりと覆いかぶさったままのアスランの背中に手を回し、きゅうっと力を込める。
ぼんやりとしたまま力なく笑うアスランが、たまらなく愛しかった。

「カガリ」
 アスランは、意を決して話しかけた。
 何度も愛し合い、アスランの腕の中でくたりと丸まっていたカガリは、まどろみながら聞いているのかいないのか分からぬ返事を返した。
「アスハ将軍閣下」
「……なんだよ」
 アスランの言葉に意図を感じ取る。
頭は少し冴えたけれど、呼ばれた名前は気に入らなかった。
「おそれながら、ザラ一佐から要望をお伝えしたく存じます」
「……なんだよ」
 うっとりとした恋人同士の気分には、あまりにもそぐわないアスランの口調に、カガリは不機嫌さを隠そうとしない。
 言葉の固さとは対照的に、アスランはどこまでも優しい目でカガリを見下ろしていた。
「『いつまでも待っている』ことに、許可を。どうか」
 今度は完全に覚醒した。
 戸惑いを含んだ苦い顔で、アスランを見上げる。
「私に命令しろというのか?」
「そうだ」
「……そんなの、ただのわがままだ」
「わがままのほうがいい。カガリのわがままに付き合ってないと、正直ダメになりそうだ」
「アスラン……」
「約束じゃなくていい。わがままで十分だ。カガリが、俺を縛ってくれるなら」
 知らないうちに、カガリの頬は濡れていた。
 うれしいのか悲しいのか、その両方なのか。もしくはまったく別の感情からなのか、ついぞ検討がつかなかった。
 意味も分からず滂沱の涙を流すカガリに、アスランはもう一度念を押す。
「頼む」
 こらえきれなくなって、下を向く。
知らないうちにアスランのシャツをくしゃくしゃに握り締めていることに気づく。
「私は、弱い……んだ……!! 国のために命を捨てる覚悟はある。そう育てられてきたし、それを誇りに思っている。……だが……捨てられないのだ……どうしても……女の私を………ッ……!!」
 嗚咽はいつしか叫びに変わっていた。
 押し殺すような泣き方が悲しい。
腕の中にいるカガリはこんなにも細く、小さいのに。世界は容赦なく彼女を押し潰そうとする。
「女のカガリを捨てられたら、俺が困る」
 自嘲するアスランを前に、カガリが為政者の顔を保っていられるはずもなかった。
「……て……待って……て……」
 そばにいたい、とか。愛している、とか。
 そんな言葉を口にできないカガリが悲しかった。
 至極消極的で、けれどわがままなその言葉は、だからこそ切実さを痛いほどアスランに伝えた。
「ハウメアに誓って」
 何よりも確かな、約束の言葉だった。

 まぶた越しに光を感じる。
湿り気のあるつんとした空気は、海辺の早朝特有のものだ。
(シャワーを浴びて、軽い朝食をとって、それからシンを起こして直接行政府に向かえば、なんとか公務に支障はないな)
 頭の中で計算する。
(寝不足はまあ……自業自得か)
 苦笑交じりに冗談のような自省をして、カガリは起きる意思を固めた。
 隣で眠るアスランの頬に軽く口付けると、猫のように音もなくベッドを降りて、隣に備え付けられているシャワールームへ向かう。
 バスルームとは別に設けられている2階のシャワールームは、海で遊んだ子どもたちの砂を落とすために設置された簡便なものだ。
ドアを開けると、子どもたちが海遊びで使うカラフルなシャベルやバケツが並べられていた。
熱い湯に身体を打たれているとたまらなく気持ちよかったが、ここが元来、子どもたちのための設備だと思うと、なんだか申し訳ない気分になる。
 痣の残る身体を見て、文字通り、大人になってしまったのだな、と無性に可笑しかった。
 ざっとシャワーを浴びると、タオルでかき混ぜるようにして頭を拭く。
さきほどの計算式を思い出し、ちらりと時計を見る。時間にはまだ少し余裕がある。
(……追加。『シンに小言を言われる』が抜けていた)
 猶予を埋めるであろうスケジュールを頭の中のタスクに追加すると、カガリはもう一度タオルで顔をぬぐった。

 部屋に戻ると、アスランは未だ夢の中の住人のようだった。
 やれやれ、と笑いながら、カガリは散乱した服を拾い上げていく。
脱ぎ捨てた拍子に落ちたのだろう、小銭やIDカードなんてものまで転がっている。
投げ捨てられたように散らばるそれらは、数時間前のことを生々しく思い出させる。
 誰にともなく照れながら拾い上げ、服はたたんで積み重ねた。
たった一枚、汚れてしまったアスランのシャツだけは別にして。
(洗っておいてやるか)
 しばし思案してから、カガリは汚れたシャツを拾い上げて、再び出て行こうと踵を返す。
「……なんだその格好」
 寝ていると思っていたアスランに、背中から声をかけられて仰天する。
 振り返ると、そこには起き抜けにもかかわらず、確固たる意志を持って不機嫌なアスランが居た。
およそ、久しぶりに交わった恋人の後朝とは思えぬ表情だ。
「起きたのか、アスラン」
「ああ」
 短く返事を返すアスランを不思議に思いながら、カガリはもう一度出て行こうとする。
「……何を着ているんだ、君は」
「は?」
 何を、と言われて素肌に直接羽織っていたシンのコートを摘み上げる。
「シャワー浴びてさ。そのままだと湯冷めするだろ?」
『別段おかしいところはないだろう?』という表情を返すカガリに、アスランはつかつかと早足で近寄る。
「まったく君は………!!」
 するりとコートを剥ぎ取られ、代わりにアスランのジャケットをばさりと羽織らされる。
(……ヘンなヤツ……)
 アスランの意図がさっぱり分かりかねるカガリは、首をひねるばかりだった。

「早くしろよ! 遅れたらオレが怒られるんだからな!」
 朝食の席でアスランに八つ当たりされて、シンの口調はいよいよ険を増していた。
跨ったバイクの上からカガリを催促して、苛立ちを隠そうとしない。
「それじゃ、またな」
「ああ、また」
 別れ際に抱き締めあう。かつて宇宙へ向かう前にそうしたように、強く、やさしく。
 少し照れながら、名残惜しそうに身体を離すアスランとカガリを、シンは真っ赤になりながら、キラは憮然としながら、ラクスは満足そうに微笑みながら、それぞれ見守っていた。

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