鉄壁のブラザー・シップ(11)

「本日から、いよいよSRTメンバーによる汎用テストを開始します。これまでのAS操作法とはだいぶ勝手が違うかと思いますが……。昨日ご覧になったとおり、皆さんの成果いかんで、今後のミスリルの戦力が大きく上がります。よろしくお願いしますね」
「「「了解!」」」
クルーゾー、マオ、クルツの三人が緊張した面持ちで、それぞれハッチに手をかける。機体そのものは慣れ親しんだM9とはいえ、今日は未知のユニットを積んでいるのだ。思わず顔がこわばる。

「全回線に正常通電を確認。第一次コンタクト成功」
ほうっとした空気が管制室に流れる。とりあえず、今日なすべき課題はクリアしたようだ。
「三人とも、AIの調子はどうですか?」
『良好よ、いつもどおり。あとは、あたしがイメージすれば、フライデーがラムダ・ドライバを発動できるようになるわけね』
「簡単にいうとそうです。フライデー、ユーカリ、ドラゴンフライに、それぞれラムダ・ドライバの発動を誘発するようシステム・ユニットを組みました。条件がそろえばラムダ・ドライバを起動できるはずです」
『んで。肝心のそのラムダ・ドライバ起動ってのはどうやるんだ?』
「カナメさん、アドバイスをお願いします」
「え~っと……なんか、モヤモヤっとしていたのをえいやってまとめる感じで……。それから、ふも~っ! っと気持ちを前に集中して、うおりゃーっと……」
『……なんだ、それは』
『んだよ、わかんねーの? 俺は分かるぜ、カナメの言いたいこと。要するにあれだろ、モニョモニョ~っとしてたのをガッシガッシかき集めて、一気にスパパパーン! みたいな』
「あ、そんな感じ、そんな感じ! Don’t think.FEEL!っていうか!」
『だろ~っ!?』
「大佐。ウェーバー曹長やカナメみたいな、天才型にアドバイスをさせるのは無理かと重いますが」
「……ですね。ええと、サガラ軍曹、アドバイスをお願いします」
「了解です。肝心なのは、想像力と集中力です。攻撃時ならば、この一撃が必ず敵を貫く、というイメージを。防御時ならば、あんな弾丸でやられるわけがない、というイメージを明確に描きます。そして、それをより精緻に実現すべく集中するのです」
『なるほどな』
「実際に試してみるのが一番手っ取り早いんじゃない?テッサ」
「そうですね。では、ヴァーチャル・ソフトを起動します。まずは、防御のイメージを作ってみてください」
テッサの指示で、ヴィランが戦闘シミュレーションソフトを立ち上げた。3機のモニタ上に、ポリゴンと3D映像による市街戦が展開される。
『えーと、こんな感じか!?』
クルツの乗る機体の背中から、ぶうぅんと低い音が響く。
次の瞬間、クルツ目がけて向かってくる弾丸が、インパクトの直前で砕け散った。
「ウェーバー曹長搭乗機、ラムダ・ドライバ起動」
『っしゃあ! ざっとこんなもんよ!』
「常々そうじゃねぇかとは思っていたが、やっぱ天才だな、ヤツぁ」
「それもあるけど。なんといってもベース・プログラムになったアルが、成長していたからってのが大きいわね。そのおかげで、初期フォーマット状態から起動フラグを立てるまでのプロセスをスキップできたわ」
『恐縮です。ミズ・クダン』
「それに、カナメさんの実験協力の寄与によるところも大きいんです。ウィスパード独特の、オムニ・スフィアへのアクセスルートを計測できなければ、ここまで短時間での完成はなかったでしょう」
「たはは……。なんか、照れちゃうな」
『むっ……』
『うーん……こんなもんでどう?』
「クルーゾー大尉、マオ中尉のラムダ・ドライバ起動を確認。出力は不安定ですが、障壁の展開が確認されています」
「さすが、私の部下は優秀です」
テッサが自慢げに胸を張り、実験の終了を告げた。

「お疲れ様でした。おかげで、実験は大成功です」
集まった関係者全員に、テッサは満面の笑みを振りまいた。
「いやはや、驚いた。こりゃうまいことやらないと、オレたち整備班はおまんま食い上げだな」
ブルーザーのジョークに、ミーティングルームがどっとわいた。
それから、セオリーどおりにVTRやデータを見比べて、それぞれの所感を議論していく。最後に『妖精の目』の映像をひと通り見終わった後、マオが質問した。
「あれ? おかしくない? 昨日のソースケとカナメのときは、2機で展開してたバリアが……ホラ、溶け合うみたいにして……一個の円みたいにくっついたじゃない?なのに、あたしたち3機のは、それぞれ別の円になって重なりあってるわよね。格納してるASなんて、となりと20フィートも離れてないわよ?」
「いい質問です。マオ中尉」
テッサが一歩進み出て、ホワイトボードになにやら描き始める。
「昨日サンプリングしたデータを研究チームで分析した結果、2つの仮説が立ちました。1つは、ラムダ・ドライバの共振増幅について。イージーに説明すると、こんな感じです」
テッサはホワイトボードに、大きな円をひとつ描いた。さらに円の外側に機体A、機体Bという言葉を書き込む。
「まずは、大雑把におさらいしましょう。こっちの大きな円が、オムニ・スフィア。機体Aと機体BはTAROSを通じて、ここに呼びかけます。『ミサイルを防ぎたい』とか『威力の強い弾を撃ちたい』という具合に。そうすると、オムニ・スフィアから反応が返ってきます。ちょうど、叫んだ声がこだまになって返ってくるみたいなイメージです。その『こだま』を増殖させて、物理的な力に変換する装置が、ラムダ・ドライバです」
テッサが、オムニ・スフィア円と機体A、機体Bの間に両矢印を書き込む。
「そして、これはあくまで仮説ですが―――。オムニ・スフィアという領域にも、座標の概念が応用できると考えられます」
一部のクルーが首をひねる。研究チーム以外は置いてけぼりになりつつあるようだ。
「分かりやすく例をだしましょう。Aさん、Bさんが共通する1つの敵Cと対峙しているとします。Aさんは『Cに威力の強い弾を撃ちたい』と呼びかける。Bさんは、『Cを撃破できる弾を撃ちたい』と呼びかける。この2つは、ほとんど同じイメージといえますよね?」
ハードルが下がった説明に、整備クルーや作戦部の面々も深くうなずいた。
「細かい条件は考慮しないとして。『同じ状況』『同じ目標』『同じタイミング』で、AさんとBさんが『似たようなイメージ』を呼びかけた場合、オムニ・スフィア上の非常に近い座標にアクセスするんです」
『オムニ・スフィア』と書かれた大円の中の片隅に、肩を寄せあうようにして小さな円を二つ描き加える。
それぞれ、『Aさんのイメージ』『Bさんのイメージ』と書き込まれた。
「オムニ・スフィア上で近接した座標は、地球上で発現するとき、座標誤差がほぼ0になるほど近接します。そこから引き出された干渉反応は、物理的な力として発現したとき、非常に近い性質を―――場合によっては、まったく同じ性質を持ちます。そうなったとき、昨日のサガラ軍曹とカナメさんのように、反応が共振・増幅しながら融合を起こすんです。3+3=6ではなく、3×3×3×……と連鎖反応的に増強していく。それが、昨日の実験で確認された『異常なほど強固な障壁』の正体だと、私は考えます」
「ちょっと待ってください。いくらオムニ・スフィア上での補足座標が近い、とはいっても『そっくり同じ』イメージなわけではないでのでしょう? それが融合しちゃうって……なんだか、乱暴に聞こえるんですけど」
シノハラ軍曹が、控えめに質問した。
「えっと、オムニ・スフィアってのはとんでもなく広い場所……と考えてください。広さの概念そのものが通用しないようなところなんです。時間と場所の制約を受けない領域ですから。それを、時間と場所を持った、狭い地球上で発現するとなると……。うーん……そうだ、野球場の1塁と2塁にねん土の塊が1つずつ、置いてあると考えてください。その状態だと、2つのねん土は離れた場所にある別物ですよね? ねん土の大きさはそのままで、入れ物である野球場だけを、手のひらくらいの大きさに縮小したとします。そうなったら、ねん土はムギューっと押しつぶされて、大きくて密度の高い、ひとつの塊になっちゃうでしょう? そんなイメージです」
身振り手振りを交えて、ミラが説明を付け足した。
「ふむ。その理論から行くと、作戦チーム全員が同じイメージを持ち得たとしたら、純粋戦力の十数倍の力が得られる、と?」
クルーゾーが若干の困惑を残しながらたずねる。
「ええ。今まで以上に、息のあったチーム連携が大切になります。昨日の実験で、サガラさんとカナメさんが融合を成功させたのは、まさしく『ミサイルから身を守りたい』というお二人の気持ちが重なったからです。2機でもあの威力ですから、仮にチーム全員で発動できれば、強力な武器になります」
一同が色めき立った。今でさえ、ラムダ・ドライバ搭載機と非搭載機の戦力は8対1ほどだ。『思うだけ』なんてローコストな方法で、戦力比をあげていければ、戦果に劇的な変化が起きるだろう。
資金調達に関わる幹部メンバーを筆頭に、みな期待に目を輝かせる。
「もうひとつの仮説というのは?」
騒ぎ出す面々をけん制するかのように、マデューカスが続きを促す。
ノーラとブルーザーがずいっと前に出た。
宗介は、直感的にイヤな予感を嗅ぎ取った。昨日散々おちょくってくれたコンビだ。
「ふたつ目は、AIと息を合わせることの必要性……ってところかしら?」
「なんだぁ? そりゃ?」
「パイロットとAIが『共通の特別な目標』を持った場合、神経系統や反応系統のシンクロ率が驚異的にアップするの。その結果、莫大な力がラムダ・ドライバから生まれる」
ノーラの説明を、ブルーザーが噛み砕く。
「ようするに、同じ目的を達成するために強力な紳士協定が生まれるってことだ。オール・フォー・ザ・ワンってわけだな」
「えーと、『一緒にがんばろう』みたいなモンかしら?」
「そんなところね。もともと、バニ・モラウタが作ったアルには、パイロットとシンクロするために学習・成長する性質が備わっているの。パイロットとAIが協力関係を築きやすいようにね。あの3機にも、これをベースにしたシステムが組み込んであるわ。ただし、アルみたいに『一人のパイロット専用機』になってしまうほど、強力に性格づけしてるわけじゃない。あくまで、『だれとでも協力できる』レベルで。AIとパイロットが、共通の目的意識を持った関係になれればいいの。男女関係だったり、戦友だったり、家族だったり……」
「はー……。ソースケとアルの場合、友情やら兄弟愛やらってとこか……」
レモンが、モニタ上のアルと宗介を交互に見比べた。
「バニって人は、きっとロマンチストだったのね」
「愛のチカラと男同士の友情……。どこぞの週刊少年雑誌みたいだな」
半信半疑のクルツが、身も蓋もない感想を口にした。

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