鉄壁のブラザー・シップ(8)【R-18】

「ちょっと、ソー……」
抗議の声が宗介のくちびるに吸い込まれる。驚いたものの、かなめは素直に応じた。なんとなく、宗介が疲れていることを察したからかもしれない。
だが、キスの途中、背中にあった宗介の手が胸へと移動してきた時、かなめの顔色が変わった。
「すすす、ストップ! あんた、何しようとしてんの!?」
「もちろん、セックスに決まっている」
「真顔で言うな! だいたいねぇ、こんな唐突に……」
怒声だけでなく拳も飛ばすかなめの攻撃を甘んじて受けつつ、宗介は椅子に座っていたかなめを肩にかついだ。
「なにすんのよ! 人をイノシシみたいに!!」
「移動するだけだ」
「だったらせめて、前抱きにしてよ! これじゃ狩の獲物だわよ! ほんと、ムード構築能力ゼロよね、あんたは!」
「ふむ。前抱きなら移動を了承するのだな?」
「そういう意味じゃ……」
不毛なやりとりの間に、かなめはまんまとベッドへ転がされた。すかさず起き上がろうとするかなめを、宗介が足元にのしかかって阻止する。
「どうしたのよ?アンタが唐突なのはいまさらだけど、なんか今日はヘンだよ?」
かなめの表情が、怒りから心配へと変わる。妙に切羽詰った空気を彼女は感じ取っていた。
「君は、あの領域にいるべきではない」
「……なにそれ?」
「ああいうのは、どこかの小難しい研究者にまかせておけばいいんだ」
そう言って荒々しくシャツを脱ぎ捨てる宗介は、どこか悲壮感が漂っていた。
「ソースケ、少し変わったね」
「そうか?」
「うん。なんか、ワガママになった」
「そうかもしれん」
「でもきっと……いいことだよ、それ」
「そうか」
「うん、だってさ、前のソースケは『いつ死んでもいい』って感じだったもん。欲しいものがあるほうが……手に入れようと執着して、生きようとするでしょ? あたしは……そのほうがうれしいよ」
「そうか。では存分に手に入れさせてもらおう」
「……相手の都合を聞かないのは、ただの強欲っつーのよ」
腹筋を使って器用に起き上がろうとしたかなめを、宗介はさらに力をこめて押しとどめ、かなめのシャツをまくりあげた。
「ちょっ……! あのね、分かってんの?ここ、テッサの部屋なのよ?」
「大佐殿が戻るまでには1時間以上ある。問題ない」
「問題あるでしょ! だいたい、準備ってものが……」
「それも問題ない。先ほど部屋へ戻った際、コンドームを携帯してきた」
「ンなことのために部屋に戻ったわけね……アンタは……。ジュースはついでだったってわけ?」
「いや、半々だ」
「だいたい、他人の部屋でそーゆーコトしようと思うアンタの常識を疑うわ!」
「野営の片隅で姦淫している男女は、どこの国でもいる」
「あーそーよね。アンタは疑う常識自体が無いんだったわよね……」
かなめがもうお手上げ、と脱力した瞬間を見逃さず、宗介はすばやく彼女の胸の下着を左右に開いた。
拘束されていた豊かな胸が、弾けんばかりに飛び出す。双方の頂点を指で押し上げるようにさすると、すぐにピンク色から朱桃色に変化した。
両胸が窮屈に寄せ合わされている分、余計に鋭敏に刺激が伝わる。
「んっ……本気でやる気……?」
「肯定だ」
肘をついて上体を起こしたかなめが、不安そうに見上げる。
羞恥に揺れる瞳が、あと一押しで陥落することを告げている。得心した宗介が、かなめの耳元へくちびるを寄せる。
「問題ない。すぐに終わらせる」
「……シーツ、変える時間も考えてよね」
「了解」
答えると、宗介はそのまま舌をかなめの耳に差し込んだ。かなめの音の世界から、外界の音がシャットダウンされる。そのかわりに、きちゅきちゅと耳の中を動き回るやわらかい感触と水音が、頭に直接伝わってぞくぞくする。
音が遠くなったことで、抑えていた声が跳ね上がる。それを聞いた宗介は、左手の人差し指を唾液で濡らして、かなめのもう一方の耳を塞いだ。
「ソースケッ……ひゃめ……んあっ……」
完全に音を支配されたかなめの声は、ますます大きくなる。冷えていく唾液と生ぬるい舌の這い回る感覚から、身をよじって逃れようともがく。
「ひ……あー……あーっ……!」
五感をひとつでも奪われると、理性はあっけなく本能に侵食されていく。かなめの目から完全に抵抗の意が消えたのを、宗介は冷静の端でかろうじて捕らえた。
「もったいないとは思うが、さすがにあまり騒ぐわけにはいかないからな」
力が抜けているかなめのスカートから、手早くショーツだけを抜き去る。身に着けていた支給品のアーミーパンツを膝まで下ろすと、屹立して先端に湿り気を帯びたペニスが露出した。
そのままかなめの入り口にあてがい、中には入れず周りに擦り付ける。すでに溢れている愛液をからませるように、カリで蜜をすくい、突起やひだにまぶしていく。
かなめはもどかしい愛撫にぼんやりとしていたが、くちゅくちゅとした水音が段々増していくのを感じて、とっさに腰を浮かせた。
「……ね、ソースケ。やっぱ、その……最後まではやめておこうよ。ここ、テッサのベッドだし……悪いよ、そういうの。汚しちゃったら……アレだしさ…」
腿からシーツへと滴り落ちそうになる愛液を気にしつつ、かなめが最後の一線を押しとどめた。
そのまま、腰をひねってスカートを直そうとする。
「千鳥、それはあまりにも残酷だとは思わないか?」
かなめの足元で下半身を露出したまま放置されている宗介が、異議を申し立てた。
「そりゃまぁ……。でも、さすがにさぁ……。また後でってことで……」
かなめが茶化しながら、ベッド脇に落ちたショーツを拾おうと四つん這いになった瞬間を、宗介は見逃さなかった。手早く避妊具を身に着けると、かなめの細い腰を両手で掴みあげて引き寄せ、スカートを勢いよく腰まで捲り上げる。
「ぎゃっ! なにしてんのアンタは!」
唐突に尻をまるまる露出させられた無防備さが、かなめを通常モードへ引き戻そうとする。
が、有無を言わさず侵入してきた宗介に、かなめの理性はふたたび傾いた。
「や……ひゃめ……て……」
「そういうわけにはいかない。きちんと責任をとってくれ」
かなめの制止に耳を貸さず、宗介は奔放に腰を打ちつけ続ける。体勢を崩していたかなめは、ベッドに両手をついて律動の衝撃を支えた。
打ち込まれるたびにずん、と腹を圧迫する重みはくるものの、これだけならばまだ理性の建て直しがきいた。
「だっ……からぁ! 悪いでしょ、こういう……っの……。テッサは……昔アンタのこと……」
「知ってい……る……! だが……ことわっ……た……。話はついている……はずだ」
ずりずりと匍匐前進状態で逃げるかなめが、とうとうベッドボードまで追い込まれた。恨めしげに宗介へと振り返り、今一度説得を試みる。
「あのね、ソー……」
「これでも一応、俺なりに気を使っている。断った後も、大佐殿に対して邪険にも優柔にもせず、以前同様ふるまうよう心がけている。千鳥が一緒にいれば、必ず君を優先させているつもりだ」
意外な宗介の告白に、かなめは呆気にとられた。
言われてみればそうかもしれない。以前はずいぶんとテッサに対する宗介の態度にやきもきしたものだが、ここ最近そんな気持ちを味わっていないことに気づいた。
「……クルツくんのおかげ?」
「確かに、奴の意見には傾注すべき点が多い」
「そっか。ソースケもそういうところ、気を使ってくれてるんだ……」
「君は、あまりにも多くの場所を失いすぎた。俺まで、君の居場所を脅かすような真似はしたくない」
「ソースケ……」
あくまで真剣で大真面目なその言葉は、甘くささやかれるより余程信じられた。
目の奥がつんとなる。涙が見えないように、目を閉じる。上半身をひねり、後ろから胸に添えられていた宗介の左手をそっととって、手の甲に口づけた。
言葉にできないかなめの気持ちを、不器用ながら察した宗介は、彼女の長い髪を撫でた。
それは繊細で美しく、つかみどころがなくて、不思議に焦れた気持ちを助長した。だが、その愛おしむべき扇情的な光景は、別の原因で高まっていた彼の感情をも刺激した。
「言いにくいのだが、千鳥」
「え?」
「そろそろ、続きをしてもいいだろうか」
「…………」
「すでに時刻は22時40分だ。思ったより遂行時間が長引いている」
「あたしが抵抗したせいっていいたいの?」
「そうは言っていない」
「……さっさと終わらせてよ」
「了解」
ようやく同意を取り付けると、宗介は再びかなめの中を往復し始めた。
顔が見える角度とは違う締め付けと肉のひだの動きが、いつもとは違う刺激で急激に宗介をあおる。無意識にそれを味わおうと力がこもる。
かなめは宗介からの衝撃を逃すために、両腕を折ってベッドに突っ伏した。宗介を刺激する角度が、さらに変化する。
「ひぃ…ぁんっ!……やっ……やっ……」
突っ伏して尻だけを宗介に突き出す格好になっているかなめの姿は、奇妙な征服感と嗜虐心を宗介にもたらした。
『この女は俺のものだ』
原始的な充足感が、快楽を加速させる。
「千鳥……足を開けっ……もっと……奥まで……いれたい……っ…」
返事を待たずにかなめの腿を両手で割ると、赤く充血しているかなめの性器全体があらわになる。普段隠れているそれをねっとりと眺める優越感は、たぶん、この世界すべての男に向けられているものだ。
他の誰でもない自分だけが、かなめの淫猥であられもない姿を支配できる。
そう思うと、麻薬めいた恍惚感が湧き上がってきた。息も絶え絶えに宗介に答えようと喘ぎ続けるかなめに、さらなる刺激を与えたくなる。角度を変えて腰を打ちつけつつ、前から手を伸ばして、硬く尖っているかなめの芽をきりりとつまんだ。
「ぁいっ……らぁ……んんっ……!」
かなめの嬌声がいっそう高くなる。まなじりに涙を浮かべて叫ぶその姿は、動物のように滑稽なのに、恐ろしいほど美しかった。頭が身体に支配されていく。
宗介は無意識に上体ごとかなめの上に覆いかぶさって、噛み付くようにくちびるを貪った。律動の早さとともに高まる感情にまかせて、そのまま背中、肩、腕、頬、耳といたるところを舐め回す。
「……そろそろ……っ……出る…っ……」
「んーっ! んんん……っ…あーっ……」
ぎりりと握りつぶすようにかなめの乳房を掴み上げると、宗介は腰から絞り込まれるような感覚に身を任せた。

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