4.この身体だけをものさしにして【R-18】

肌寒さで目が覚めた。弥彦は、奇妙な足の痺れを感じて、足元を探る。どうやら、蹴り飛ばした掛け布団のうえに、一晩じゅう足を乗せていたらしい。足のむくみと肌寒さの原因を知った弥彦は、つまさきを使って器用に布団をかぶりなおした。
障子ごしに見える光からすると、じゅうぶん二度寝の余裕がある時間だ。けれど、もう一度目を閉じたところで、弥彦は尿意をおぼえた。
酒を飲んだ次の朝はいつもこれだ。寝起きの気だるさと尿意。からからの喉。ろくでもない気分。毎日酒を飲む人間の気が知れない。
「さっみ……」
用を足した後は、自然と台所へ足が向かった。がぶがぶと水を飲む。酒を飲んだ次の朝は、決まってもがくように水を飲む。何度体験しても、日照りの日の犬みたいだなと弥彦は思う。だが、見た目の醜さにさえ目をつぶれば、とりあえず少しは頭がすっきりする。
袖口でごしごしと口をぬぐいながら、弥彦は布団の敷いてある客間を目指す。弥彦の予定は、今日も稽古と仕事で埋まっている。十一歳の日常は、それなりに忙しい。生き抜くためには、もう少し眠る必要がある。
「弥彦、寒くない? お布団足りてる?」
客間の障子に手をかけたところで、声をかけられた。振り向くと、客間のならびにある自室から、寝巻き姿の薫が出てこようとしていた。
「めずらしいな、薫がこんな時間に起きるなんて」
「物音がしたから。まだもう少し寝るつもりだけど」
「俺もそうする。布団は足りてるから大丈夫だ。寒けりゃ、勝手に出す」
「そっか。場所、分かってるものね」
「おうよ。まだちゃんと覚えてらあ」
そう言うと、弥彦は長いあくびをひとつした。こきこきと首をひねって、冷えて固まった筋をほぐす。
「ふあぁ……。じゃ、俺もうちょっと寝るわ」
じゃあな、と弥彦が薫に背を向ける。障子を七分ほど閉めたところで、薫が再び弥彦に声をかけた。
「弥彦、たまには泊まりに来なさいよ」
「ん? ああ。けど、長屋だってそう遠いわけでもねぇし……」
「そうだけど……。一応ここも、あなたの家なんだから」
いつになくしおらしい薫の態度に、弥彦は軽口で返すことを躊躇う。保護者のような台詞を口にしてはいるけれど、薫はどこか落ち着きがない。その言葉は、言い訳しているようにすら聞こえる。
「わかったよ。おやすみ」
おやすみなさい、という声を背中に受けると、弥彦は今度こそ客間の扉を閉めた。
寝乱れた掛け布団をつかむと、まだ体温の残る場所を敷布団の中に探して横になる。天井がゆったりとうねって、眠りが近づく。薫の部屋に、剣心の気配はない。
「邪魔すんなって、左之助に言われてんだけどな……」
左之助と薫の言葉のどちらを優先させるべきなのか。答えを出す間もなく、弥彦は眠りに落ちた。

「失礼」
本人が不在と知っていても、剣心はひと声かけてから襖を開けた。手には雑巾とそれをすすぐための桶を持っているし、袖はたすきがけでまとめている。よしんば薫が在室していたとしても、言い訳は立つ。さらにいえば、そもそも剣心が無言で部屋へ入ってきても、薫は怒ったりしない。いまさら。
掃除とはいっても、薫の部屋には、剣心が手をつける余地はほとんど残っていない。布団は押入れにしまわれているし、文机のうえには筆が綺麗にならべられている。火鉢のまわりには灰ひとつ落ちていない。行灯の油が皿のまわりに垂れていることもない。そうでありながら、その部屋で毎日主が暮らしている手ざわりは残っている。
ほどほどの几帳面さと、手ごたえのある生活感。彼女の人柄を体現している空間だ。
雑巾を固くしぼって、剣心は文机と箪笥の側面をぬぐう。それから、今度は乾いた雑巾で畳をふいた。
三畳ぶんほどふいたところで手を止める。先ほど絞った雑巾からぽたぽたと垂れる水の音だけが、午後の部屋を支配する。
薫の部屋は好きだ。
ここは、すべてが彼女ごしでできた場所だ。家具の配置も、色調も、匂いも、神谷薫という機構をくぐりぬけてから構成されたものだ。薫ごしの眼鏡で見る小さな世界は、いつだって新鮮な光に満ちている。
だから、不安になる。
ここは、知らない場所だ。これまで訪れたことのない場所だ。
流浪人になってから十年あまり、日本全国ほとんどの場所を流れたけれど。ここは、これまで足を運んだどことも似ていない。
未知と未経験は剣心を戸惑わせる。
なにに触れるべきで、なにに触れてはいけないのか。なにが頑丈で、なにが壊れやすいのか。すべてはこの手と足で確かめるしかない。ここでは、剣は意味をなさない。
刀を手ばなした自分の大きさが、こんなにも曖昧だなんて知らなかった。高下駄を履きなれた役者は、裸足になると自分の身長が分からなくなると聞いたことがあるが、ちょうどこんな感じなのかもしれない。
剣で守るのなら。なにからだって守ってみせるけれど。
幸いというべきか、あいにくというべきか、薫と生きるこの日常は、闘いの影すらない穏やかさで満ちていて。
剣の通じぬこの日常で、彼女のなにを守ることができるのだろう。薫から与えられたものは、いくらでも思いつける。けれど、自分が薫に与えたものは、なにがどれだけあっただろうか。
何百何千と繰り返してきた問いかけだ。家事の助けだとか安らぎだとか、並べたてようとすれば、いくらかは思いつける。けれどそれは、剣心以外の人間が提供できる種類の役務だ。
思考の壁にぶつかる。問いかけを繰り返すたびに行き当たるその壁は、何度衝突しても、いっこうに崩れる気配がない。壁の足元で、剣心はぐるぐるとまわりつづける。自分の尻尾を追いかけまわす犬みたいに。
そして、ひとしきり駆けまわった後で、いつも最後にはこう思うのだ。
『考える時間はたくさんある。俺たちは、一緒にずっといるのだから』
からぶき用の雑巾を、剣心は桶のうえでぱたぱたとはたく。綿ぼこりや細かい砂が、水面にぱらぱらと散っていく。水面を揺らす音に耳をまかせていると、今朝までここにいた薫の気配が、かすかに空気の中に残っているのが感じ取れる。
目を閉じる。神経を研ぎ澄ませて、彼女の気配をさかのぼる。昨夜の薫の気配に、剣心は含まれていなかった。

「今日は来ねぇみたいだな、アイツら」
稽古道具を道場の軒先に下ろすと、弥彦はだるくなった腕をぐるぐると回した。すでに日が暮れようとしている。この時間まで現れないとなれば、今日は鎌足や張と顔を合わせることはなさそうだ。
「進展があったら、また連絡するって言ってたけど。昨日の今日だしね」
「はぁ、近いうちまた来んのか……」
昨夜の大騒ぎと、今朝味わった頭痛を思い出して、弥彦はうんざりとした顔になる。彼らに遠慮されるのは気持ちが悪いが、かといって、あれだけ我が物顔で神谷道場を闊歩されるのも腑に落ちない。
「急ぎでなければ、警察の方を連絡によこすって言ってたわよ」
そう言われて、弥彦はここ最近毎晩のように訪れている出前先を思い出した。捜査本部が急造された時期を考えれば、それが今回の件とつながりがあることは察しがつく。署内ののんびりとした空気から、事件の内容まで気に留めていなかったが、今さらながら弥彦は納得した。
『見張りや巡回くらいしかやることがない』と言っていた新市を思い出す。半年前に弥彦と操が駆け回った荒川河口を、今度は新市たちがうろついているのだろう。
「じゃ、後片付けはわたしがやっておくから。時間でしょ? そろそろ」
「ああ。今日も出前だとさ。ついでに警察で、何か進展があったか聞いてみるよ」
「お願いね」
「じゃ、いってくる」
道場を飛び出していく弥彦を見送ると、薫は残された剣術道具の整理をはじめた。
まずは、洗濯に出す手ぬぐいをまとめた。それから竹刀を一本一本手にとって、弦や先革にゆるみがないか確認する。
指先で弦を弾くぴぃんという細い音と、台所からかすかに聞こえる包丁の音が、夕暮れの道場で交じり合う。台所を動き回る剣心の気配の、ほどよい遠さが心地よい。
この日常には、彼の気配が必要だ。もう、戻れない。それなのに。

風呂場から近づいてくる足音に、薫は目を開けた。
目に入った天井は、昨日とは別のものだ。すでに見慣れた剣心の部屋の天井は、部屋にほとんど物がないせいか、やたらと高くみえる。
足音は台所の前でいったん止まった。水でも飲んでいるのかもしれない。
薫は、足音が接近を中断したことに、ほっとしている自分に気づく。その考えをふり払うように、薫は乱暴に布団にもぐりこんだ。
『そんなことを思ってはいけないのだ』
『剣心と一緒にずっと居るのだから』
『彼の人生をせめてそばで支えていたい、と願っているのだから』
『彼を愛しているのだから』
頭の中に次々と湧き出てくる非難が、薫を責めたてる。
頭から布団をかぶる。頼むから静かにしてほしい。
分かっている。だからこうして、わたしは誰よりも彼のそばにいるじゃない。彼に求められるままに、笑って、抱かれて、日々を過ごしているじゃない。それを望もうとしているじゃない。だから、おとなしくしていて。わがままなんて言わないから。言わないでみせるから。
気がつけば、足音は扉の前まで来ている。音を立てないようにして、薫はそっと布団から顔を出した。乱れた髪を手櫛でなおして、入り口に視線だけを向ける。『たった今足音に気づいた』、そんな顔で。
「起こしてしまったでござるか?」
「ううん。うとうとしていただけだから」
風呂あがりの剣心が、布団に足を滑り込ませた。剣心は座ったまま、洗いたての頭を手ぬぐいでがしがしとこする。湯のにおいと混じりあった剣心のにおいは、薫を安心させた。
「さすがにこの時間だ。今日は何事もなさそうでござるな」
「そうね。でも、あの人たちのことだから、油断はできないわよ。夜討ち朝駆けをなんとも思わなさそうな人たちだもの」
「たしかに」
くっくっくと二人は笑う。夜の寝室は親密なぬくもりに満ちている。そこは二人だけの場所だ。誰の介入も求められない場所。その逃げ場のなさが、ときに薫を息苦しくさせる。
剣心はひととおり髪を拭くと、身を起こしたまま布団の脇にある行灯に手をかけた。火芯と油を調整している剣心を、薫は布団からそっと観察する。
下から見上げる顎の曲線はやたらと骨ばっていて、剣心を珍しく年相応の男に見せた。洗いたての髪が、無造作に幾筋か頬に張り付いている。火を見つめている瞳は、表面に橙色を乗せてゆらゆらと揺れていた。首から鎖骨にかけての皮膚はごつごつとしていて、腕や顔よりもいくぶん白い。
薫の胎の奥が、きゅうっと突きあがる。見上げた男の身体を、薫の身体は覚えている。すみからすみまで。
抱かれたい、と思う。けれど同時に、溺れてしまいたくないと思う。
『溺れるにはまだ早い』
頭のどこかが、必死に抗議の声をあげている。
息苦しくなる。弥彦や燕といった誰かが居るときは、あんなに自然に話せるのに。先ほど二人きりでとった夕食でだって、何も考えずに笑っていられたのに。
肌が触れる距離で、剣心がむき出しの男の顔を見せたとたん、薫はなにを口にしたらよいのか分からなくなる。話題を探そうとすればするほど、話すべきことなんて何もない気がしてくる。
いつもはやさしい沈黙が、悲しくなるほど薫をかき乱す。
『こんな気持ちを、剣心に知られてはいけない。』
そう思って事態を打開しようとすればするほど、どんな態度が正しいのか分からなくなる。深い海の底に潜った人間が、上下どちらが水面かを見失った果てに、水底へ向かって泳いでいくみたいに。
手を伸ばす。剣心の寝巻きの合せ目に、するりと手を差し入れる。
『こうしていれば、何も言わなくても済むから』
そんな理由で彼に触れる自分を、薫は嫌悪する。けれど、そんな薫を嘲笑うように、身体は頭を何も考えなくてもよい場所へ運んでいく。
どの程度腕を伸ばしたらそこに届くのかを、薫の腕は覚えている。剣心の足の間を器用にくぐりぬけて、指先でそっとその奥にある下帯をずらす。湯のぬくもりが残る剣心の陰茎は、しっとりと湿り気を帯びてあたたかかった。
「……ン……」
上半身をひねって行灯をいじっていた剣心は、座りなおして足を投げ出した。足の間に薫をおさめると、薫の頬にかかる髪を、指にからめて耳にかけた。
「ん……ちゅ……」
剣心の足元にうずくまって、薫は下から上へと剣心の陰茎を舐め上げる。浮きあがった血管をひとつひとつ舌でなぞりながら、軽く陰嚢をつまむ。指先ではさんだ陰嚢を口で吸い上げると、カリ首がぷっくりと膨らんだ。
「あ……薫……殿……」
「ぅむっ……ん……」
剣心が薫の両耳のなかに指を差し入れてかきまわした。がさがさとくすぐったい音が、耳の中で反響する。身体の内側が、むずむずとした感覚に敏感に反応しはじめる。音の遠近感を奪われた薫が、失くした感覚を埋めるように手と舌を動かし始めた。
「んぁ……は……む……」
ほおばった亀頭で口の内側を刺激すると、つらりと唾液があふれだす。舌で亀頭を押しつぶすようにして唾液をすりつけると、薫の首の上下にあわせて、布団がずり下がった。掛け布団ごしにも、薫の腰がゆらゆらと揺れているのが、剣心には分かった。
「腰をあげて……」
掛け布団を引き剥がして、剣心が薫の尻に手をかけた。が、剣心が引き寄せようとする前に、薫が身をよじって腰を引いた。
「今日は……けんひん……らけ……」
亀頭に舌を這わせながら、薫が剣心を見上げる。先端ににじんだ先走りを、ぺろりと舌ですくいとった。
潤んだ薫の目に、剣心は唾を飲み込んだ。思わず、薫の言葉を無視して、尻をつかんでいた手に力をこめる。
「……んん……! あ……かおる……」
剣心の動きを牽制するように、薫が一気に剣心の陰茎を喉の奥まで飲み込んだ。口内におさめたまま、歯と舌で丁寧に鈴口と亀頭を転がしていく。すでににじんでいた先走りが、次第に塩気を増して粘り気を帯びてくる。

「ふ……ん……んっ……!」
剣心の力が緩んだのを確認すると、薫は一気に舌とく
ちびるの動きを速めた。喉の奥を突かないように気をつけながら、緩急をつけて何度も頭を上下させる。そうしているうちに、根元が急激に締まるのを薫はくちびるで感じとった。ちゅるりと音を立ててひときわ強く吸い上げると、先端から粘液が勢いよくあふれ出た。
「う……ンッ……!」
「んぅっ……んくっ……」
口内を奔放に叩く剣心の精液を、薫はできる限り飲み込んだ。最後に、尿道に残った精液をつうと吸い上げて、亀頭から口を離す。生臭いにおいの残る重い息を深く吐くと、ようやく薫は剣心を見上げた。
「薫……」
うっとりと薫を見下ろす剣心は放心していて、ただでさえ年より若い容貌が、よりいっそう幼く見える。無意識に身につけている飾りを取りはらった、まっさらな三十男の素顔だ。
無防備な射精後の顔を見つめていると、薫は自分の物思いなど、どうでもよいことのような気になる。
鎌足の言葉を断片的に思い出す。
『真面目すぎるとがんじがらめになる』
彼女が言いたかったのは、つまりそういうことだろう。
気づいている。すでに薫の足元には、重い鎖が絡みつこうとしている。蛇のようにうねる、生きている鎖だ。
注意深く檻に封じ込めておいたはずのそれは、外に出ようともがいている。それを外に出すことができたならば、薫はどれほど楽になれるだろう。
けれど、それを開放することは薫にはできない。檻を開け放したら最後、獣の爪と牙が向かう先は、剣心だ。
だから、その咆哮に耳をふさぐ。そうすれば、彼は安らかで穏やかな場所で笑っていられるから。彼を獣から守る檻は、幾分傷つくかもしれないけれど。
「薫殿も……」
剣心が熱を帯びた目で薫を見下ろす。どことなく申し訳なさそうなその表情は、薫の庇護欲を根元から揺さぶる。薫はそっと身を引いて、襟を割ろうとする剣心の手から逃れた。
「いいわ。今日は、剣心だけで」
「だが……」
「いいってば。剣心のが見られただけで満足よ」
それはほんとうに。心からの、本心だから。
だから。これ以上わたしの中に踏み込まないで。いまは。もう少しだけ時間が経てば、こんなつまらないわがまま、忘れるから。忘れてみせるから。
「おやすみなさい、剣心」
「……おやすみ、薫殿」
目を閉じる。何かを言い淀んだような剣心の声にも、耳の奥で小さく聞こえる獣の声にも、聞こえないふりを保ちながら。

薫を抱かないままに、三日が過ぎた。
一日目は口淫だけで満足したからと彼女は言った。二日目は、翌日の早朝稽古を理由に。三日目は、その稽古の疲労を理由に、薫は早々に眠りについた。
はやる気持ちはあれども、日々を生きる中で欲望だけを優先させるわけにはいかない。だから、剣心が数日薫を抱かずに夜を過ごすことは、それほど珍しいことではない。それを承知していても、不思議とこの三日、剣心には薫が遠く見えた。
夕方の土間に腰掛ける。しゅんしゅんと苦しそうに湯気を吐く釜の音は、四日前とひとつも変わらない。食器の位置も、味噌樽の場所も、道場で片づけをする薫と弥彦の気配も。
すべては予想と日常の範疇で動いている。ありきたりで大切な、当たり前の風景と気配だ。
剣心は目を閉じる。そして、自分が居る場所に違和感を探す。なにもかも順調に、滞りなく進行している。剣心以外のすべては。
だからやはり、この澱みは剣心の中にあるものなのだ。腹のなかをぐるぐると回る、気持ちの悪い重み。それを隠して笑う男。この穏やかな風景のなかに紛れ込んだ、唯一の異物。
自分がこの風景に馴染んでいないと認めることには、ひどい嫌悪感がともなう。怒りとやるせなさが入り混じった抵抗心だ。
この場所にとどまる覚悟をまだ持ちきれていないのだろうかと、剣心は疑心暗鬼に陥る。その後で、そんな自分の迷いが、これまで何度となく薫に不安を与えてきたことを思い出して、暗澹たる気持ちになった。
澱みの原因は分かっている。
薫だ。
いつもどおり笑っているように見えても、薫はどこか剣心を敬遠している。傍目からは分からないだろうし、剣心本人ですら、気にかけなければほとんど気づかない程度ではあるけれど。
薫は、剣心に必要以上触れまいとしている。意図的になのかどうかは分からない。
何の気なしに左手に頬杖をついて、剣心は右手を見つめた。見慣れた骨ばった手だ。ことあるごと癖のように柄を握っているせいで、手のひらと指の皮は固くごわごわとしている。繰り返している怪我のせいか、指の骨は少々歪んでいるが、いつからそうなったのかは思い出せない。
たくさんの命を扱ってきた手だ。ある時には奪いもしたし、またある時には守りもした。
この手で幾度となく彼女に触れた。肌を撫で、髪を梳いて、内臓に指を挿しいれた。薫の身体で剣心が触れていない場所は、おそらくどこにも残ってはいない。
それでも、一番触れたいものには触れられない。彼女の肉の奥にしまわれた熱だとか、魂だとか、心だとか、そういった光は、いつだって巧妙に剣心の指をすり抜けていく。
なんど薫の肌を蹂躙し、内腑をえぐっても。結局のところ剣心が触れられる部分は、薫が剣心に見せている部分だけだ。その奥にある熱源は、決して剣心の前に姿を現さない。
理由と結論は簡単だ。
剣心と薫は別の人間だから。
厳然とした事実であり、過不足ない真実だ。それにもかかわらず、剣心はその事実を受け入れることに抵抗があった。
薫が剣心に触れさせない部分を持っている。
その孤独は、宿主に認知を拒まれたまま、夕方の台所に転がっていた。

変化をもたらしたのは弥彦だった。
出された夕飯をせわしなく喉に詰め込んでいた弥彦を、例によって薫がたしなめた。弥彦は、この後にも出前が控えているから急いでいるのだ、と応戦する。反論しながら、弥彦は署長からの伝言を思いだした。
「そうだ、剣心。署長からことづてがあったんだ。『頼まれた件、万事滞りなく』だってよ」
「承知した。署長殿に礼を伝えておいてくれ」
「おう。けど、頼まれた件ってなんだ?」
「なに、急ぎで蒼紫に連絡を取ってもらったのでござるよ」
「蒼紫にぃ? なんでま……」
言いかけて、弥彦は気づいた。密輸品の内容を考えれば、たしかに彼はうってつけの協力者だ。
「そっか。アイツ、観柳んとこで……」
「ああ。本意ではないとはいえ、自分が加担した案件だ。蒼紫としても、けじめをつけておきたいだろう」
「それじゃ、蒼紫さんがうちに来るの?」
口をはさんだ薫の口調が、剣心にはいやに明るく聞こえた。それから、剣心は考えすぎだ、と心の中で舌を打った。
「蒼紫のことだ、あと二日もあれば東京へ着くでござろうよ」
「そんなに早く? てことは、鎌足さんたちが来た日にはもう連絡を……? って、あ……!」
自分で言っていて薫は気がついた。言われてみれば、鎌足と張が来訪した夜、剣心は一瞬だけ家を空けていた。ということは、すでにあの時点で、剣心は蒼紫の協力が必要だと判断していたことになる。剣心の鋭い洞察力に、薫はいまさらながら舌を巻いた。
「つーことは、あと二日もするとあの二人がまた来るワケか……」
嫌そうな顔を隠しもせずに、弥彦が言った。となりで苦笑いしながら、薫が鎌足と張を弁護する。
「でもほら、腕は確かなわけだし。心強いじゃない」
「またウチを引っ掻きまわさなきゃいいけどな」
『まったくだ』
声に出さずに、剣心は心の中で弥彦に賛同した。

「そうだ、剣心。明日にでも、お客様用のお布団干しましょ。それから、食器も納戸から出しておかないとね」
思いつくままに用事を羅列しながら、薫が箪笥の引き出しを開ける。すべりの悪くなっている引き出しは、ぎしりと重そうな音をひとつ立てた。
「布団なら、ちょうどこのあいだ弥彦が使ったばかりでござるからな。敷布を洗っておくでござるよ」
「あ、そうね。お願い」
「ああ」
布団から見上げる薫が、剣心の目にはどこか楽しげに映った。ほうっておいたら、鼻歌まで歌いだしかねないくらいだ。
もっとも、そう見えるのは自分のひねくれた心根のせいかもしれない。剣心はひっそりとそう思った。
蒼紫には借りがあるし、彼の道程と性格を考えれば、決着をつけるべきであることも分かっている。なにより、有事の際、蒼紫はこのうえない戦力だ。それでも、剣心は蒼紫の来訪を手放しで歓迎する気にはなれなかった。
蒼紫が来ると聞いてからの薫は、ずいぶんと張り切っているように見える。夕食後、さっそく客用寝室の畳をからぶきして、行灯のほこりを払っていた彼女の横顔を思い出す。
薫の自分への気持ちを疑ったことはないし、蒼紫が来たことによって、それが変化するとも思わない。だというのに、蒼紫の来訪を待ち望む気持ちよりも、明日にも彼が到着するかもしれないという焦りが、剣心を強く支配した。
「そうだ、蒼紫さんが来るってことは、操ちゃんも……」
「いや。今回はひとりで来るであろうよ」
静かな剣心の声に、薫は思わず振り返った。剣心は布団から薫を見上げている。その視線から、薫は彼の意図を理解する。
人誅のときとは事情が違う。ほかに選びようがなかったとはいえ、外法に手を貸していた過去を、蒼紫が操に見せつける真似をするとは思えない。
「そっか……そうね……」
「ああ。だから……」
剣心は手を伸ばすと、布団の脇に立っている薫の足首に触れた。ひんやりとしたその指は、薫に剣心の緊張を伝える。
この人は、気づいているのかもしれない。
薫はそう思う。
薫自身ですら説明のつかないわだかまりを、剣心は感じ取っているのかもしれない。
考えてみれば当然だ。剣心は薫の一番近くにいるのだから。理由は分からずとも、薫になんらかの変化が起きていることを、剣心は感じ取ってしまう。鋭い洞察力を持った彼だから、なおのこと。
ほんの少し息苦しくなる。けれどそれは、裏を返せば、剣心が真摯に薫を見つめているということでもあるから。
愛しさが、窮屈さを圧しつぶしていく。腿の奥がぎゅうっと握られたように切なくなる。
剣心から与えられる喜びからは、逃れられない。そして薫は、剣心を不安にする自分を許すことができない。その証拠に今、おそるおそる薫の肌に触れる剣心の指先は、こんなにも薫の庇護欲をかきたてる。
「剣心……」
薫はしゃがみこんで、剣心の手をそっと握った。冷たい指先をあたためるように、自分の頬に添える。
「……だから……なに?」
誘うような薫の目に、剣心は笑顔を返した。欲望を肯定された男の笑顔ではない。受け入れてもらえると分かった少年の、安堵の笑顔だ。
「なんだと思うでござるか?」
剣心は笑う。ひそやかな賭けが勝利に終わったことを、そっと胸にしまいこんで。
今夜、薫が剣心をふたたび拒んだとしたら。違和感は決定づけられてしまう。そう剣心は直感していたから。
「教えて……くれるんでしょう?」
「無論。朝まで」
しゃがんでいた薫の肩と腰を支えたかと思うと、よろける薫の力を利用して、剣心はふわりと薫を引き倒した。一瞬の動作に言葉を失っている薫のうえにのしかかると、下半身でがっちりと彼女の身体を固定する。薫が悲鳴を上げるよりも早くくちびるを奪うと、ころころと丸い彼女の歯を、丁寧に舌でなぞりあげた。
「……ンッ……手が早いこと」
身体の自由を奪われた薫が、あきれたように剣心を見下ろした。剣心はすでに、薫の首筋をまさぐりながら胸元に顔をうずめている。薫の小言をものともせず、左手で薫の乳頭を捏ねつぶしながら、剣心は薫を見上げた。
「焦っているのでござるよ、こう見えても」
そう言うと、言葉のとおり剣心は性急にもう一方の乳頭にしゃぶりついた。すでにかたく尖っている乳頭を舌先で押し込み、軽く噛むようにしてくちびるの先に乗せる。同時に、もじもじと交差している薫の足の間に自分の足を滑り込ませて、すりあげるようにして腿を動かした。
「ふぅ……ふぁ……あ……」
「こっちも……固い……もう……」
薫の陰部をさするように、剣心はさらに腿を押しつける。ふわりとした陰毛の感触が、次第に愛液にまみれてぞりぞりとした手触りに変わっていく。ぷっくり立ち上がった陰核のこりこりとした固さは、薫の快感の深さを剣心に教えてくれた。
ここ数日節制を強いられていた性欲が、すぐにでも薫の中に入りたいと剣心の腹を叩く。その声に忠実に、剣心は身体をずらして薫の秘部を覗き込んだ。
「あっ! や……じっと見ないでって……いつも……」
「ん……」
慌てて秘所を覆おうとする薫の手首をつかんで押しとどめると、剣心はつるりと薫の陰核を舐めあげた。舌で吸いあげて皮を剥くと、赤く熟した陰核がぷるりと震える。
「ひやぁっ! ひゃめっ……あぅっ……」
薫の手から力が抜けたのが分かると、剣心はつかんでいた手を放して、そろりと薫の膣内に指を差し入れた。
「ふあぁっ! んっ……あ、あーっ……! はぁ……あぁ……」
陰核と膣を同時に責められると、薫はそれまでの羞恥心を手放して奔放に喘ぎはじめる。薫からあふれる愛液が白く濁りはじめたことを確認すると、剣心は左手にも粘液をまぶして、指で陰唇を開くようになぞった。
「あ……ふぁ……っ……」
陰核と膣の二点からの刺激に支配されていた薫の秘所が、さらなる刺激の予感に小さく震えた。それを視認すると、剣心は左手の指先で、そっと薫の後穴を撫でた。
「あっ! そこ……は……ぁっ……!」
戸惑う声とは裏腹に、すでに大きく開かれていた薫の下半身は、剣心の指をふたつ目の穴へとやわらかく受け入れた。隙間なく身体が埋められる感覚に、薫は目じりに涙をうかべて声をあげた。
「やっ……! だめっ! だめ……ぇ……」
「あたたかい……薫殿の身体は……どこもっ……」
「やっ……いやっ……!」
「……こんなに締めつけているのに……? 痛い……?」
「んっ……痛くは……ないけど……。こわい……よ……」
見下ろす薫の不安そうな顔に、剣心は冷や水を浴びせられたような気持ちになる。いやいやと小さく首を振る薫の健気さは、剣心の快楽に歪んだ嗜虐心を急速にしぼませていった。
「あ……! その……す、済まないっ……!」
薫の陰部から手と口を離す。薫の戸惑った顔は、完全な拒絶を示していない。それだけに、剣心の後悔をよりいっそう煽り立てた。
「済まない……その……」
それまでの強気な男の顔とは打って変わって、剣心が叱られた少年の顔に変わる。
薫は、肘をついて上半身を支え、剣心を見下ろした。引き締まった男の身体の上に乗った、落ち込んだ少年の顔。それが女の股の間から覗いているあべこべさは、薫を微笑ましい気持ちにさせた。
「薫殿……その……拙者……怖がらせるつもりでは決して……」
「分かってるわよ」
首を伸ばして、薫は剣心にくちづけた。
緋村剣心はずるい。
不均律で唐突で。成熟した男と幼い少年とが同居したこの男は、ひどく薫をいらだたせたと思ったら、次の瞬間、なにもかも許してあげたくなるほど愛おしくさせる。なにもかも知っているような顔をして、実は驚くほどなにも知らない彼は、いつだって薫を翻弄する。きっと、このさき一生。
「ね……剣心」
剣心の頬に当てていた指を、薫はつつと自分の腿に移動させた。そのまま、剣心の視線を導くようにして、自らの秘部まで滑らせる。
「こっちなら……怖くないから……」
「薫……殿……」
恥ずかしそうに自分の秘所を指し示す薫に、剣心は思わず喉を鳴らした。その中のあたたかさと、ざらざらと粒ついた粘り気を、剣心の身体は反射的に思い出す。
「ん……薫……」
ちゅぷんと音を立てて、剣心の亀頭が薫の膣にめり込む。大小たくさんの凹凸で覆われた薫の膣内が、上下にうねって剣心をさらに奥深くに誘い込もうとする。
「あはぁ……けんしん……っ……けんしんっ……!」
「あ、薫っかおるぅっ……」
根元まで埋まった剣心の陰茎を、薫の膣がきゅうきゅうと締めあげる。右にひねられたと思ったら、今度は左に撫で上げられて、剣心は容易く追い込まれていく。
「はぁっ……薫の……奥……に……出すっ……!」
「んんー! ん……あぁ……奥が……っ……! ね……おく……にぃっ……!」
尾てい骨をくすぐられるような電流が、剣心の尻から腰へと駆け上がる。刹那、剣心は堪えようと抵抗を試みる。が、とろんとした薫の目が、今すぐ欲しいと剣心にねだっているように見えて。あっけなく剣心は抵抗を諦めると、身体の求めるまま、薫の最奥に精液を注ぎ込んだ。
「ン……! かおる……!」
「あ……いっぱい……おくに……」
数度に分けて射精する剣心の震えを、薫はうっすらと笑いながら受け止めた。その少女のような穏やかな笑顔が、どうしようもなく淫らに開いた女の身体のうえに乗っているものだから。剣心は、自分がひたひたと満たされていくのを感じとった。
『薫にとって、俺だけが特別だ。』
そう確認できたと、自分に思い込ませるほどに。

昨晩思う存分薫を抱いておいてよかった。
剣心が心底思ったのは、夕方の道場に新市が現れたときだった。
いかにも大命を仰せつかった顔で、息せききって門へ駆け込んできた新市は、直立不動の姿勢で剣心に告げた。
「緋村先生! 署長からの伝言です! 件の人物、横浜港に本日昼到着の由!」
「左様でござるか。だが新市殿、その『先生』というのは、いい加減やめてほしいでござ……」
「いえ! 維新志士様々はみな自分の先生だと思っておりますので!」
新市の勢いに反論する気力をそがれた剣心は、そこで口を閉じた。剣心が抱えている洗濯物を見て、新市はしきりに手伝いを申し出たが、のらりくらりと言い訳をして、剣心はそれを押しとどめた。
「さて。なんとか到着までに乾いたでござるな」
洗濯竿から取り込んだ敷布を、ぱんぱんと叩きながら剣心が言った。新市は首をかしげる。剣心の言う客人は、昼に横浜に到着したばかりだ。だとすると、到着はどんなに早くても深夜になるはずだ。
「到着までにって……。あの……さっきの人のことを言っているのなら、着くのは急いでも夜に……」
「遠くからすまぬな、蒼紫」
「ああ」
門へと振り返った新市が見たのは、いつぞや藤田警部補を訪ねてきた長身の男だった。黒星物産倉庫の捜索についての報告書を思い出す。その鮮やかな攻防について、新市は心躍らせて読んだものだった。
「四乃森先生!」
表情の変化に乏しい蒼紫の相貌が、怪訝そうに歪んだ。見上げる巡査のらんらんとした瞳に、蒼紫は見覚えがある。
「お前はたしか、巡査の……」
「はい! 新市小三郎五等巡査です!」
「なんだその『先生』というのは」
「ハッ! 黒星物産での活躍ぶり、小生いたく感動いたしました! 自分にとって見習うべき方は、みな先生だと思っておりますので!」
敬礼の姿勢をとる新市を、蒼紫は返事をせずにただ見下ろしていた。外見からは分からない蒼紫の戸惑いが、剣心には容易に想像できた。
「それにしても、さすが四乃森先生! この短時間で、横浜からここまでたどり着くなんて……! 兵は神速を貴ぶ、ですね! 自分、心に刻み込みます!」
「そうか」
意欲に燃えてまくし立てる新市と、あくまで平静な蒼紫。いかにもうまの合いそうにない二人が並んでいる姿を見て、剣心は一人ひそかに苦笑した。

夜近くになって出稽古から戻った薫と弥彦も、やはり蒼紫の到着の早さに驚いていた。とはいえ、驚いたのは一瞬で、彼ならばそのくらいはしかねないと、すぐに二人は状況に適応した。
着替えが済むと、薫は挨拶もそこそこに、ぱたぱたと家中を走りまわって客人の部屋をつくろいはじめた。取り込んだままになっていた敷布を拾い上げて、蒼紫を訪ねる。蒼紫は、外套を脱いだだけの格好で、一人静かに座禅を組んでいた。
「あの……お邪魔ですか……?」
「いや」
薫はおそるおそる部屋へ一歩を踏み出す。もともと人を寄せ付けない雰囲気を持つ蒼紫だ。座禅を組めば、そこに結界でもあるかのように近寄りがたくなる。なんとなく邪魔をしている気分になって、薫は物音を立てないように、そそくさと行灯に油を継ぎ足した。
足りないものはないかと、部屋を見回す。蒼紫の荷物は、片隅に置かれた鞄と愛刀のみのようだった。
傍らに置かれた外套を、薫は拾い上げる。背の高い蒼紫の外套は、薫が持ち上げてようやく引きずらずに済むほどの丈があった。
裾を擦らないように注意しながら、薫は衣桁に外套をかけようと背伸びする。すると、もう少しで届くというところで、急に外套が軽くなった。
「あ……あの、ありがとうございます……」
「いや」
音もなく背後に立った蒼紫が、薫の手から外套を取り上げて、こともなげに衣桁にかけた。背中から伸びてきた手の大きさと、薫を完全に覆い隠す影になるほどの背の高さと、嗅ぎなれぬ男の息遣いに、薫は無性に落ち着かない気分になる。剣心とは違う男のにおいだ。
「え……ええと……なにか入り用なものがあったら……。そ、そうだ! 寝巻着、父のでよければすぐ……」
「いらん。必要なものは持ってきている」
「え、でも荷物って……」
さして大きくもない蒼紫の鞄を見下ろして、薫は首をひねった。蒼紫が物に頓着しない性分であることは容易に想像がつくが、だからといって数日分の荷物がこの中に入っているとは、到底信じられない。
「旅上手なんですね」

ぱっと薫の表情が変わる。小さな発見をした少女の顔だ。そこには、つい先ほど白いうなじから香った女のにおいは感じ取れない。
薫の突然の変容に、蒼紫はひそかに面食らった。もちろん、分かりにくい彼の驚きに、薫は気づかない。
「すぐにお風呂沸かしますから。長旅で疲れているでしょうし、今夜はゆっくり……」
「いや。もう出る。そうだな、緋村」
「ああ。薫殿も支度を」
いつの間にか廊下に立っていた剣心が頷いた。蒼紫は外套を脇に抱えると、足元の長刀を拾い上げた。鍔鳴りがふたつ、重なり合ってちきりと音を立てた。

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